The American College of Rheumatology's top 5 list of things physicians and patients should question. Arthritis Care Res (Hoboken). 2013;65:329-39.
よくある「Choosing wisely」のリウマチ版。
リウマチ診療で用いられる5つの疑問について提言されている。その5つは以下の通り
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抗核抗体(ANA)
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ライム病
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骨密度測定
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関節リウマチ に対する生物学的製剤
訳すと
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暴露歴・適切な検査所見がない限り、筋骨格系症状の原因としてライム病を検査するな
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炎症性関節炎の定期フォローを目的に末梢関節のMRIを実施するな
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RAに対してMTXを試さずに生物学的製剤を処方するな(※例外あり)
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2年に1回以上の頻度でDXA(2方向からのX線骨吸収測定法)スキャンを実施するな
となっている。今回は①のANAに関して記載していく。
「疲労・筋肉痛等の非特異的な症状の患者・線維筋痛症患者にANAをスクニーニングするな」(Ann Intern Med. 2012;156:147–9.)という言葉に代表されるように、一定の原則に基づいてANAチェックは実施されるべきである。具体的には「検査結果がマネジメントに影響しない」「検査前確率が偽陽性の確率よりも低い」場合には実施しない方がいいとされる。
また、具体的な鑑別疾患がないのにANA抗体価が出る前にANAのサブタイプ(抗dsDNA抗体など)を測定することも避けた方がいいとされている。(具体例:SLEを疑っているわけでもないのに抗dsDNA抗体を測定する→ダメ)
(感想)
よく言われていることだが、抗核抗体には偽陽性が非常に多い。人口の5%はANA x160程度になると言われており(up to date ”Measurement and clinical significance of antinuclear antibodies” 2019/10/15閲覧)、一方で代表的なANA抗体陽性疾患であるSLEの罹病率は0.1%未満である(Arthritis Rheum. 2007;56:2092–2094.)。理由もなく測れば偽陽性まみれになってしまう。
様々な要因で非特異的な抗体価上昇をきたす。
・最も代表的なものが「性別」「年齢」である。女性・高齢であればあるほど陽性率は上昇する(Autoimmun Highlights. 2010;3:35–49.)。
↓の図は日本での単施設データ(日内会誌 1997 86:1381-1384)
・全身性自己免疫性疾患以外の原因としては
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細菌性:亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、梅毒
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悪性腫瘍:リンパ増殖性疾患だけでなく、他の固形癌でも「腫瘍随伴症候群」の一環として起こりうる
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炎症性腸疾患(IBD)、肺繊維症
が挙げられる。(up to date ”Measurement and clinical significance of antinuclear antibodies” 2019/10/15閲覧)
・また化学物質でも陽性となりうる。報告があるのは
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薬剤:金製剤、スルファラジン、ヒト免疫グロブリン(IVIG)、TNFーα阻害薬(infliximab)など
である。(Reumatologia. 2018;56(4):243-248.)
日本では検診等で「何となく」抗核抗体が測定されることがあるが、正直言って「何の意味もない」と思われる。(きちんと膠原病らしい症状の問診を行ったうえで実施すれば、少しは意味があるかもしれないが、そんなところは見たことがない)
癌マーカーでも全く同じことが言われていると思われるが、きちんとした推奨を日本としてもACRのように大々的に出した方がいいのでは?と正直言って思う。(もうあったらごめんなさい)
名著「膠原病診療ノート」(日本医事新報社)でも
「不明熱患者のANAは、炎症一般の随伴所見、または癌、リンパ腫、Castlemanリンパ腫、 稀な心房粘液種に由来する可能性がある。 ウイルス感染症に伴う一過性のANAは少なくない。」とあり、まったくもってその通りだと思う。そういう意味では不明熱での抗核抗体測定は一定の意義があるのかもしれない。
まとめ
・症状がない中での抗核抗体の盲目的な測定はやめた方がいい。
・抗核抗体偽陽性の原因は多岐にわたるので注意。出す以上は鑑別疾患を抑える必要がある。